本田瑞穂『すばらしい日々』
本田瑞穂さんの第一歌集『すばらしい日々』(邑書林)を再読。いま・ここを超えようとする浮遊感が文体のすみずみにゆきわたり、ポップスのさびのようなテンションの高い共感を強いている感じ。ノスタルジックで、リリカルで、具体的に何をどうとは言わないのだけど、読者のきもちのすきまを見つけるとぐんぐんと触手を伸ばしてくるようでもある。ただ、そうした全体の特徴を言うと、では東直子や村上きわみやひぐらしひなつあたりの作品とどう違うのか、といったところはかえって見えにくくなるかも知れない。
新潟のさといもぬめるしっかりとここで暮らして雪を見なさい/本田瑞穂
春を待つ気持ち支える屋根からは降った以上に落ちてくる雨
手を振ると女はすこし手を振って自分の産んだものをみていた
すばらしい日々を半音ずつ上がり下がりしながらやがて忘れる
踏切でひとの叫びに似た音がしたわたしいまここにいたのに
すこし大きい傘の重さを確かめる信じたことは濡らさずに行く
好きとか佳いとかいう感覚を超えて、自分の何かをもっていかれるような印象を抱いた歌を選んでみた。どちらかと言うと浮遊感を抑えている歌だ。レトリックについても、それだけがきわだたないように一首のなかになじませている。描かれた時間や空間が、作者の制御の範疇を飛び出さない歌と言えるだろうか。それなりに固定した時間、それなりに固定した空間が、作者の匂いのようなものをあたりに強く発しているのを感じる。
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