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March 04, 2005

江村彩第一歌集『空を映して』批評会/メモ

江村彩さんの第一歌集『空を映して』批評会のメモ。パネラーは、加藤治郎さん小島ゆかりさん小林久美子さん天野慶さんの四人、そして進行が荻原裕幸。加藤さんは、まず、選歌力がない、前半の「家」をめぐる歌など、なぜこんな歌を入れるのかと感じられるものがあり、玉石混淆と言わざるを得ない、作品の取捨の線引きをきちんと定めることが必要だと課題をつきつけた上で、パネラーが良い歌として選んだものにほとんど重なりがないのを、多様な読者にひらかれたこの歌集の美質として指摘した。また、社会性の強い作品にこの歌集のもっとも良質な点があるとも指摘。現実の厳しさを想像させ得るかどうか、作中に、現実の行為へ踏み出すための心理的な契機が含まれているかどうかがポイントだと捉えていた。小島さんは、加藤さんが課題とした選歌力の問題をめぐって、たしかに前半の「家」をめぐる歌でははじめつまづくが、いったん全体を読み通したときには、素朴な日常の姿が見えて来る、それはそれで良いのではないか、と、ややいなし気味のコメントをしながらも、逆年順の歌集構成を、時系列に沿った方が良いのかも知れないと指摘した。その方が、後半の原石的な輝き、半ばにある海外詠の異国そのものを素直に摂取している感じ、前半の素朴な日常がそれぞれ読者に届きやすいからだという。歌集全体をめぐるこの二人の発言は対照的にも感じられたが、かなり似た点を難じていたのだと思う。斎藤茂吉『赤光』は、初版では逆年、以後の版では編年、と構成を変更している。どちらが良いなどと言える問題ではないにしても、初版が方法意識をきわだたせ、以後の版が私的な時間に沿ったプラスαを呼び寄せているのはあきらかだろう。『空を映して』では、文体と構成とが齟齬している印象がある。小林さんは、半ばの海外詠にベストの作品が集中しているという意見。全体に、読者の側の踏みこむ余白が少ない、ものごとをきっちり言い過ぎている、などの印象を受けるなか、特に前半では、破綻がないものの良識の枠内で書かれる作品が多いのに対して、海外詠では、理を排して、感覚に訴えるものをいきいきと描いているという。この点をめぐって、加藤さんは、それは長期滞在ではあっても旅行者の視点ではないか、そこに住む一人の人間の姿を見せるような方法もあるのではないか、先行する歌人たちの海外詠の試みから吸収したものが少ないのではないか、等。小林さんは、在住者の視点がないのも一つの選択と言えないか、表層を表層として描くところに江村さんの個性があるとあくまで文体の問題として捉えていた。海外詠については、小島さんの意見をもっとしっかり聞きたかったのだが、滞米中、日本が過去世のように感じられた、という話があって、それ以上は聞けないかなと思った。ぼくも加藤さんとほぼ同じ意見で、海外詠については、方法意識が甘いあるいは緩い、と感じられる。ただ、中途半端な在住者としての視点よりも、日本から断絶されたないしは解放されたといったあたりで意識を掬いとった方が、ことばがいきいきするのかな、と、小島さん小林さんという体験者の意見を聞いて、とりあえずはそう了解せざるを得なかった。むろんまだ疑問が晴れてはいない。そもそも前半の日常詠についても海外詠についても、意見を分岐させているのは、江村さんの散文的な、と言うか、作文的な文体の問題じゃないかと考えられる。一首で何かを伝えきることができないから短歌としての修辞が生まれ、あるいは連作という方法が生まれるわけだが、そうしたジャンルの歴史的な経緯に対して、アプローチが甘いか無頓着なのだ。中途半端に何かを語り、中途半端に省略している。そこに何かすっきりしないものを感じるなと思っていたところ、天野さんは、他の歌集と違って、読後に人生の重さみたいなものが残らない、爽やかな印象を受けるという。日常の何でもないようなことが大袈裟で劇的に捉えられていて、不幸が生じさせるドラマとは全く対極の位置にある、そこに幸福感がにじみ出て、個性があるという意見。天野さんの話を聞きながら、価値観の多様化というフレーズがあたまをめぐっていたが、そのような幸福感が、テキストからおのずと読みとれるものなのか、読者側の私的な条件によって読みとれるものなのか、がいちばんの問題だろう。中途半端とぼくは書いたが、その中途半端ゆえに生じた、向日性と呼んでいいような明るさがこの歌集にはたしかに充ちている。が、幸福感と向日性とは微妙に違うものである。批評会を終えて、あらためてこの点を考えてみようと思っている。以下、ぼくの好きな歌を一首あげておく。外海に包まれたという意識下での内海のやさしさ、この対照感は快いと思う。

われわたしわたくしあたしうちうみはやさし小波に足洗いつつ/江村彩

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