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February 10, 2008

2008年2月10日(日)

きのうとは一転して晴天。祭りの名残のような、白い小さなかたまりが、巷に点々と並んでいた。午後、栄の国際ホテルで事前の打ち合わせをしてから、会場の名古屋市短歌会館へ。吉田淳美さんの第一歌集『クレセント・ムーン』(ながらみ書房)の批評会に参加する。参加者は40名弱。コーディネーターは早崎ふき子さん。ゲストのコメンテーターとして鈴木竹志さんとともに意見を述べる。鈴木さんがはじめにきちんとした骨格をつくってくれたので、安心して好きなことを話せた。

吉田淳美歌集『クレセント・ムーン』は、日常や社会やその他、場所や条件によって表情の変化する「私」のありようを、残らず掬いあげようとする貪欲な構成になっていた。この「残らず」というのがむずかしいところで、そうした豊饒感を求めてゆくと、作者のこだわりというものがとても見えにくくなる。批評をするときも、何々はよくて何々はだめ、という感想が生じやすく、トータルな価値判断につながりづらいのだ。ぼく自身も、そうした、何々はよくて何々はだめ、的な文脈を出て考えることがどうしてもできなかった。

吉田さんの歌集でいちばん良質な点は、日常詠における意識のありようだと思う。私的な風景を見るときにも社会や世界を見るのと同じように見ている、とでも言ったらいいだろうか。一つのモチーフを通して、その人の「私」的な意識と社会や世界に対する意識とがつねに二重の構造になっていて、こちらが気づかずにいるような何かを日常のなかへと投射してくれている感触がある。以下のような作品にはとりわけそんな感触が強くあった。

 ベッドサイドの目覚まし五時にセットされ前泊者どこへ行ったのだろう
 一度曲げてまた伸ばしたる針金のような茎してコスモスが咲く
 姿見の死角に立ちて着替えれば誰もいない部屋夕焼けていく
 表通りのショーウィンドウのひび一本が毎日育っていくを見て通る
 裏道に傘を広げる真昼どき積もらぬ雪の立てる音聴く

蛇足になるが、だめ、と感じたのは、いわゆる「社会詠」だった。「信用が背広に付いてるはずもないがTシャツが何かを語るだろうか」なんていう堀江貴文をモチーフにした歌など、切れ味は悪くないと思うのだが、時事川柳と違って、社会を切ってひらりと身を躱す、ということは短歌にはむずかしい。フォルムのしくみのようなものが作用して、いくら躱そうとしても必ずどこかに「身」が残ってしまうからだ。この残った「身」が「私」を構成してしまうと、社会通念に縛られた類型的な「私」を見せてしまうことにもなる。これは吉田さんの課題ではないかと思った。

きょうの一首。吉田淳美さんは、よしだきよみさん。わたしのイニシャルはKYなんです、と言っていたのが印象に残っていて、帰りにそれを思い出しながら。

 空気を読むよりも空気を書くことが大切だねと梅の木に言ふ/荻原裕幸

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Comments

K・Y 吉田淳美です。たくさんコメントをいただき、ありがとうございました。批評会の前に、私なりに問題点を考えたことが、荻原さんにやはり指摘されました。時事詠、切り取り方がよいとはよく言われ、ひとつのポイントかと思っていますが、そこに私が投影されないということでしょうか。冒頭の「木漏れ日が…」は、わりにうまくいった歌かと思いますが。
 構成は、貪欲かもしれませんが、いくら上手でも似たような歌が、フラットに並んでいる歌集にはしたくなかったのです。お説、今後の課題とします。またお話ください。

Posted by: kiyomi yoshida | February 12, 2008 at 09:24 PM

吉田淳美さん、こんにちは。
『クレセント・ムーン』批評会、盛会で何よりでした。

歌集巻頭の一首。
「木漏れ日が歩道に作る白き輪のその中にだけありそうな平和」、
批評会でも語った通り、とても佳い歌だと思います。
ただ、これをぼくは、やはり批評会で語った通り、
社会詠/時事詠という括りに入れて読んではいませんでした。
社会状況を踏まえてはいますが、括りを超えている歌だと思います。

あれこれと意見を述べさせてもらいましたが、
歌集の構成についても、社会詠/時事詠についても、
こうしなければだめという制約があるわけではないので、
ぜひ吉田さんの短歌観/歌集観を貫き通しながら、
さらに新しい境地を見せて下さいませ。
楽しみにしています。

Posted by: 荻原裕幸 | February 13, 2008 at 12:20 AM

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