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February 22, 2008

2008年2月22日(金)

それほど寒くない日が続いている。

伊勢谷小枝子さんの第一歌集『平熱ボタン』(あざみ書房)を読んだ。

 鼻水も出るのが納得いかなくてあまり泣かないようにしている/伊勢谷小枝子

書いてある通りに読めば、一応そのままわかる歌ではある。が、この歌には、そのままわかる歌にはない、読者を立ち止まらせる感触が何かあるように思う。それが何であるのか、しばらく考えていた。涙とともに鼻水が流れてしまうのが「嫌」なのであれば、そうだよなあ、とは感じても、たぶんこの一首の前には立ち止まらなかっただろう。たぶん「納得いかなくて」に立ち止まっているのだ。世の中には快いことと嫌なこととがある。嫌なことを捨象すると自閉的自慰的になる。嫌なことも受容すると社会的社交的になる。ただ、短歌の上ではどちらも五十歩百歩である。どちらも、快いことと嫌なことととで構成された世界に深く閉ざされているからだ。実に些細なことにも見えるし、文脈のちょっとしたあやのようなものとして生じたのかも知れないが、それでも「納得いかなくて」は、快いことと嫌なこととで構成された世界の外側に、不可知の領域が広がっている感触をふわっとどこかからひきよせて来る。このふわっとひきよせて来る感じが、そのままわかる歌を、そのままわかる歌を超えた何かへと押しあげている。

 常習の薬の効果はもうなくて暗示を1錠ずつ摂取する/伊勢谷小枝子
 あみだくじ式に散歩を 今月は知らない角を曲がる月間
 悲しみは洗濯物を取り込んでたたむときとはちがう痛みだ
 食べかけのチーズを保存しておいていざってときにつきつけてやる

引用したのはいずれも同種の感触を得たものである。ありがちな生きざまのなかを生きながらありがちな生きざまを突き抜けてゆくような感触、と言い換えてもいい。私でもリアリティでも修辞でもない場所に、短歌の可能性を見せている気がする。

きょうの一首。自分専用のキャッチフレーズをつくっているのだろうか。

 スーパーに日和を決める独白の主婦がゐてけふはアボカド日和/荻原裕幸

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Comments

荻原さん、ありがとうございます。
鼻水短歌について深く考察してくださって、泣きたいほど恐縮しています。

Posted by: 伊勢谷小枝子 | February 24, 2008 at 06:55 PM

伊勢谷小枝子さん、こんにちは。
コメントありがとうございました。
歌集の反響、いろいろ出ているようですね。
作品とは別のことで、あとがき、にある
やや強引な「引き分け」を興味深く拝読しました。
(目はお大事になさって下さいね。)
熱と冷をかけあわせた「平熱」は、
ただの「平熱」とは微妙に違う、ということを
あの「引き分け」を読みながら考えていました。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

Posted by: 荻原裕幸 | February 25, 2008 at 11:53 AM

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