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November 16, 2010

2010年11月16日(火)/純粋に近い状態

むかし聴いた曲のカバーを聴きたくなるのは、自分が若くなくなっているから、という気がしていたのだが、どうもそればかりでもないみたいで、よく聴いた曲のカバーは、曲そのものを少し離れて、その人の声を純粋に近い状態で楽しめる、という要素も大きく影響しているようだ。植村花菜さんの「やさしさに包まれたなら」のカバーは、短歌のモチーフにしてしまうほど楽しめるのに、他の曲がなぜか彼女の声に集中できない感じをもたらすのは、そのあたりと関係あるのかも知れない。

 燃える肌を抱くこともなく人生を語り続けて寂しくないの/俵万智

『チョコレート語訳みだれ髪』(一九九八年)に収録された一首。詞書のように引用されている原典は、与謝野晶子「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」である。翻訳として巧いと感じる。そして、何よりも、翻訳であるにもかかわらず、俵万智らしさ、というものが、真っ直ぐに溢れ出ているように見えるのが凄いと思う。第一歌集『サラダ記念日』(一九八八年)以後、モチーフのその「なんてことない」感じが、一部の人たちにずっと侮られ続けているが、何と言うこともないわたしを生きながら、何と言うこともない感覚を語るように記述する文体を、あきらかな個性へと昇華したその方法は、どこからどう見ても何と言うこともないことはない。この一首をはじめとした「翻訳」された歌群には、その個性が純粋に近い状態であらわれていると思われるし、俵万智の文体/方法がどんな構造を有するのか、考察を深めるための恰好の素材でもあるだろう。

きょうの一首。

 あなたの指を見るわたくしをどこかから見てゐる冬の瞳を思ふ/荻原裕幸

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