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October 31, 2012

2012年10月31日(水)/俄然晩秋

十月が終る。中旬まではTシャツで過ごしていたのに、いつの間にか冷えはじめ、冬支度を急かされている。あと一月もしないうちに暖房のなかに居るようになるだろうし、秋らしさを満喫する間もない秋である。七月の晩夏や一月の晩冬は、例年どうにもならないほど実感できないのに、晩秋はしばしばいかにも晩秋である。家人はすでに、着る毛布、とか言う防寒具を使っている。真冬になったらどうするんだろうか。

私は真夏でも熱いラーメンを食べる。寒くなればなおさらである。ラーメンは熱いスープに麺が入っているものである、はずなのだが、昨今、つけ麺がやたらに隆盛をきわめている。ブームを超えて、ラーメンのなかで一ジャンルを確立したとさえ言われている。専門店が続出し、オンリーのイベントまで開催されているくらいなのだから、それはまあそうなのだろうが、それにしてもと首を傾げてしまうのは、私の味覚や思考の融通が利かないからか。ラーメンに関して、私の変化と言えば、この数年、博多ラーメン一辺倒だったのが、豚骨醤油や魚介系にも惹かれつつある、という程度の小市民な推移しかない。食の好みにもキャラが如実に反映されるということかも知れない。

きょうの一首。後手後手である。と言って政治批判が主目的ではない。問題はむしろ、そのような、私、である。解決してみればいとも簡単なことにしか思えない問題が、いつもなかなかかたづかなくて困るのである。

 冬支度してゐるさなかに冬が来てしまふ日本の政治をおもふ/荻原裕幸

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October 28, 2012

2012年10月28日(日)/梨形上上

午後、家人が義母と義姉とホームセンターに出かける。留守番。雨音を聴きながら、一人で食事をしていると、ここがどこで、いまがいつで、自分が誰なのか、という感覚がすぅっと薄らいでゆくような気がした。むろんそれらがほんとに薄らぐわけではなくて、ただの錯覚に過ぎないのだろうけど。後に電話が鳴って万象が元の感覚に戻るまで、落ち着かない時間が続いたのだった。

その人特有の、個性や考えが反映された、文章の感触や匂いのようなもの、それを私たちは文体と呼んでいる。たとえば、十月十三日に亡くなった丸谷才一さんは、何を書いているときにも、この文体によって楽しませてくれる(逆に言えば、嫌いな人には徹底して拒絶される)、稀少な作家の一人だと思う。若さや勢いとは違って、雑にならなければ劣化しない表現力である。私は、散文のみならず、韻文にもこの文体というものがあると考えているが、正体がいまひとつ掴めないままでいる。実例は出しづらいが、魅力的なスタイルは劣化がかなり早い。一方、劣化しないスタイルはいささか退屈なのである。

きょうの一首。妻にかかわる作品を誰かに見せると、概ねのろけのようなものとして読まれることになる。多少屈折してはいるものの、たぶんそれ以上のものでも以下のものでもないのだろう。この一首なども、文脈上は梨の形状がモチーフになっているわけだが、そう読む人は少ないのだろう。

 妻よりもやや硬くひろがる輪郭をなぞりつつ夜食に梨を剥く/荻原裕幸

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October 27, 2012

2012年10月27日(土)/古池騒然

芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」を外国語訳するとき、「蛙」を複数形にしてしまう感性は、どうにも理解できないが、どうしようもなく好きだ。ぽちゃん、ではなく、ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃ(エンドレス)。

今月の上旬、羽生善治三冠が渡辺明竜王から王座のタイトルを奪還して三冠になった。第二局、後手番の角交換四間飛車で羽生さんが勝った時点で、このシリーズの流れ、と言うか、羽生対渡辺の勝負の流れが、大きく羽生さんに傾いているという印象を抱いた将棋ファンも多かったのではないか。例の、二〇〇八年の竜王戦第四局とは真逆の印象である。こうした流れは、いつまた変化するかわからない。ただ、絶頂期にさしかかりつつある渡辺さんに対して、この波に乗ったような流れでのタイトル奪還は、大方の予想を超えていたのではないかと思う。何なんだ、この衰え知らずの、強靭な勝負力は。

きょうの一首。バブル期に私自身が浮かれていた記憶はないのだけれど、世間からあの浮かれている感じが消えて久しいのはいまだに不思議だなと思う。実はどこかごく近い死角のなかに、あの頃が広がっているのではないかと、ときどきそんな感覚が生じる。

 浮かれてた頃の日本がそこにある気がする黄落の辻のかなた/荻原裕幸

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October 26, 2012

2012年10月26日(金)/彷徨歳歳

少し遠い場所から帰って最寄りの地下鉄駅で降りると、強烈な木犀の香りが迎えてくれた。木犀の香りに慣れると、次はわが家周辺の香りとでも言うべき香りがするのに気づいた。ふだんは意識していないのだが、ふだん、の嗅覚が何らかのかたちでリセットされるとやって来る香りだ。樹木と土とあと何か懐かしさのようなものが雑ざっている。珍しい香りではないのだろう。ただ、そのブレンドの塩梅が、他ならぬここであることを教えてくれる。ただいま、と誰にともなく小さな声で呟いてみた。

マンガ家の佐藤秀峰さんのツイッターを読む。某テレビ局に対して怒りをあらわにしたことが、ものすごい反響を呼び、そのことに少し戸惑ってはいるようだけど、外見上はほとんどぶれもなく呟き続けている。有名税というのは、累進税のきわみのようなもので、佐藤さんの場合、相当な負担になろうかと思われるのに、あまりにも颯爽としていて、読んでいて目眩がしそうだ。

きょうの一首。歳をひとつとったという以外に何をどれほどと言えるだけのものをプラスすることができたのか。そういう類の焦りは、十代の頃からずっと続いている。これからもまだ続くのだろう。ことに秋から冬にかけては、季節感とこの焦慮感とが一体になってやって来ることが多いように感じる。

 去年のわたしに何をどれほど加へたか木犀の香りのなかをゆく/荻原裕幸

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October 23, 2012

2012年10月23日(火)/弁明上等

霜降。最近ときどき鍼を打ってもらう。肩の凝りは十代の頃からのものなので年齢とは関係ない、と、まずは断固として弁明しておく。ともあれ、五年ばかり前から、凝りがひどくなり過ぎて、首や背中に変な負担をかけて痛めることがたびたびあり、整体とかマッサージとか、身体のメンテナンスができる方法がないものかと探していた。行ったところはどこも相性が悪かったようで閉口していた。いま月に一回ほど通っているところは、鍼と指圧を組みあわせて適度に身体をほぐしてくれる。とりあえず調子がいい。担当の鍼師さんは若い女性なのだが、この話の大筋には関係ない、と、なんとなく弁明しておく。

「短歌研究」十一月号が届いたのでぱらぱらと読んでみた。創刊八十周年記念の企画の第二弾ということで、新人賞や評論賞などで同誌にゆかりのある歌人の作品がずらっと並んでいる。「新進気鋭の歌人たち」という特集もあり、所謂期待される次世代の作品も作者の写真入りで並んでいる。八十年間の後半の歌壇的な年表もあった。壮観である。私もゆかりの歌人として、短歌十首「秋図到来調」を寄稿している。「短歌研究」をはじめ、歌壇は長く、若い世代をうまく牽引しているわけだが、若かった世代、の現在の作品のクオリティはどうか、ということが、いつからか気になりはじめている。

きょうの一首。書いている私自身に、いやいやなくはないでしょう、と強烈につっこみを入れたくなった。ええまあ一応そういうつっこみも折りこみ済みですけどね、と、やや力なく私自身に弁明しておこうか。

 中年がなくていきなり老人になるのかなうろこぐもいわしぐも/荻原裕幸

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October 22, 2012

2012年10月22日(月)/木犀通信

数日前、家人と植田のオリコーヒーに行ったとき、この秋はじめて木犀の香りに気づいた。翌日からは近隣でも香りが広がっている。暑さが長引いたせいなのか、やけに遅い開花である。それにしても申しあわせたように同時に咲きはじめるのは、木犀の一般的な属性なのか、それともほんとに木犀同士での申しあわせのようなものがあるのか。後者だと面白いな。人間にはわからない木犀間での通信方法があって、そろそろかな、まだまだ、そろそろだよ、まだもう少し、いいかげんいいんじゃね、じゃあ咲こうか、みたいな感じで。

ブログを再開してみようかなという気分になりつつある。メモの類はつねづね書いているわけだから、いつ再開してもいいはずなのだが、文章や作品を他者に向けてリリースする総合的な負担を考えると、どうなのか迷うところではある。とりあえずブログのスタイルでメモをまとめておこうか。公開するかどうかは後日判断すればいいことなのだから。

きょうの一首。この夏で五十歳になった。五十年と言えば半世紀である。他人に年齢を隠したことはないけれども、この年齢は、口にするとなんとなく照れる。秋刀魚はただ単に私の好物だというだけのことだが、書いたあとで、佐藤春夫「秋刀魚の歌」を思い浮かべたりしていた。

 二十五歳が過ごした時間ふたりぶんなのだと笑ひつつ秋刀魚食ふ/荻原裕幸

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